レチノールの生化学的なお話
レチノールは細胞に取り込まれると、細胞内の酵素によって、
オールトランスレチノール、オールトランスレチノイン酸、シスレチノイン酸と
変換されます。
トランス、シスってのは、幾何異性体を指すことばで、
トランスってのは逆方向、シスは同方向に構造が展開していることを指します。
まあ、その辺は置いておいて、レチノイン酸ってのが2種類あるってことを
ご理解いただければと思います。
一般的にトレチノインと呼ばれ、医療用で使われるのが
オールトランスレチノイン酸になります。
レチノイン酸受容体は2つ存在し、レチノイン酸受容体とレチノイドX受容体と呼ばれます。
どちらも核の中に存在し、特定の遺伝領域を活性化させます。
皮膚にレチノイドの外用を続けると当初見られた落屑、紅斑を伴う皮膚炎
いわゆるレチノイド反応と呼ばれるものは、段々なくなっていきます。
これをレチノイド耐性の獲得といいます。
この現象については、詳細はわかっていないのですが、
レチノイド特有のシグナル伝達自体が抑制されることによって、
レチノイド反応が収まることが分かっています。
端的にいえば、効きにくくなるって話よな。
レチノイン酸の核への移行を妨げるようになるんだとか。
CRABPII(cellular retinoic acid binding protein II)が細胞質内で
遊離のトレチノインを捕捉し核内への移行を妨げていることわかっています。
似たような話では、インスリン耐性ってのがあります。
インスリンは細胞に糖を取り込むように作用するホルモンですが、
血糖値が高い状態が続くと、インスリンが常に出ている状態になり、
細胞がインスリンに晒され続けることで、耐性ができてしまいます。
その結果、細胞が糖を取り込まないため、いつまでも血糖値が
高い状態になります。
これを糖尿病と呼びます。
つまり、レチノイド反応が出ることは、レチノールを使ううえでは
本来は失敗なんですよね。
ただ、全く無駄になるのかというと、そういうわけではないです。
なぜなら、受容体はもう1つあって、シスレチノイン酸になったものは
有効なわけです。
まあ、全部が全部シス型となるわけではなく、
ロス分も多いでしょうが。
で、ここからが本題ですが、次世代型レチノールとして知られる
バクチオールですが、トランスレチノイン酸ではなくて、
シスレチノイン酸に構造的に近いわけです。
つまり、レチノイドX受容体に作用するわけ。
レチノールも最終的にはシスレチノイン酸による作用になるわけなので、
同等の結果となるのは必然。
レチノイド反応が起こりにくいのも、レチノイン酸受容体に
作用しないからってことで説明できます。
【関連記事】